ゲノム(遺伝子)の守護者

図1:ゲノム(遺伝子)の守護者

そのためp53は「ゲノム(遺伝子)の守護者」などとも呼ばれています。(図1) 実際、p53が欠損した家系では様々のがんが多発することや、食道、大腸のがんや乳がん、肺がんなど多くのがんでp53の異常が認められることが知られています。p53を利用したがん治療薬もすでに研究されています。

★ がん抑制遺伝子のもうひとつの働き

p53はがんを抑制する以外にも、意外な働きをしています。実は、p53は、誕生する赤ちゃんを、奇形の発生から守っているのです。例えば、母マウスのp53を実験的に働かなくすると、生まれてくる赤ちゃんマウスの70%に奇形が発生するとレポートされています。赤ちゃんの奇形の多くは、遺伝子の突然変異によって起こるとされていますが、p53はこれらの突然変異をキャッチし、突然変異を起こした細胞を自滅に追い込むと考えられています。小児外科の領域では、赤ちゃんの奇形を防ぐためにp53を応用しようという取り組みもされているのです。

p53と進化の関係

p53はがんを抑制し、また奇形の発生を防ぐという、重要な働きを担っている、生物にいわば不可欠な遺伝子と言えるでしょう。

一方、p53は、人間などのほ乳動物だけでなく、線虫やショウジョウバエにも共通しており、そのため、進化の過程で受け継いで来たものという説が唱えられ、進化の証拠とされてきました。

ところで、現在に至るまで、多くの進化のメカニズムを説明する説が考えられて来ました。その主流は今もやはり、DNAの突然変異の集積によって遺伝子に変化が生じ、進化が起こってきたという説です。しかし、生物に不可欠なp53は、突然変異を防ぐ遺伝子でもあるのです。多くの生物にこの遺伝子があるということは、多くの生物が突然変異を起こしにくいメカニズムを備えているということなのです。

突然変異を起こしにくいメカニズムが働かなくなれば、進化しやすい状態になり得るでしょうが、それはがんが発生しやすい状態であり、奇形の頻度を増やすものであり、生物にとって危機をもたらすのです。

がん抑制遺伝子の存在は、進化論の土台となるものを根底から覆す事実です。

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(医学博士 浜口千佳子