生物の設計図と言われるDNAは、細胞一個一個のなかにワンセットずつ入っています。人ひとりの体のどの細胞も、全細胞は同じDNAを持っています。ところが、私たちの体は皮膚、胃など別々の細胞で出来ているのです。なぜ同じDNAを持っているのに違う細胞になっているのか。それはDNAにスイッチが付いていて、使うDNAと使わないDNAを区別しているからなのです。そのDNAスイッチを解明する研究を"エピジェネティクス"といいます(図1)。
DNAのスイッチの研究は、DNAのスイッチミスによってがんを含むさまざまな病気が起こることから、最近注目されています。またiPS細胞とも関連があり、日進月歩の分野でもあります。
図1:最新の研究:DNAスイッチ
さて、進化論者はDNAスイッチの研究から人とサルを比較し、進化の証拠を得ようとしてきました。しかしその結果は彼らにとって実りの多いものではありませんでした(参考文献1,2)。
2011年の人とサルの白血球のDNAスイッチ研究では、白血球という共通の細胞を比較したにもかからわず1500箇所の違いが検知され、科学者達を驚かせました。この研究は精子と卵細胞でも行われ、人とサルの間にやはりDNAスイッチの違いが見つかり、この違いは人とサルの決定的な遺伝的相違であることが示されました(参考文献3)。
2012年には、人とチンパンジーの脳遺伝子のDNAスイッチ研究が、高精度技術を用いて行われました(参考文献4)。 人とチンパンジーの知能の違いに迫る興味深い研究です。人とチンパンジーの脳遺伝子には同じ配列の部分があり、その部分のDNAスイッチを調べたのです。その結果人とチンパンジーでは、DNAスイッチの質も量も違うことが判明しました。さらに人のDNAスイッチは、その微細な変化によってさまざまな神経疾患や精神疾患、そしてがんを生じることがわかりました。
これは、エピジェネティック進化、つまり「DNAスイッチの変化により遺伝子が複雑化し、それが進化をもたらした」というアイデアを否定するものでした。明確になったのは、脳遺伝子のDNAスイッチが繊細に調整されていることと、人とチンパンジーという種の違いによって、DNAスイッチも違うということでした(図2)。
図2:人とチンパンジーの脳DNA研究でわかったこと
この研究から、さらに驚くべき事実が明らかになっています。人とチンパンジーで脳遺伝子の配列が同じ箇所は、人の脳活動にとって重要でかつアクティブな働きを担っていました。そしてその部分は、脳遺伝子の配列自体は共通しているがDNAスイッチのパターンは大きく異なっていたのです。つまり書かれている設計図の文字は同じでも、編集され、違うものになっていたということなのです。その違いが、人とチンパンジーの知能の違いを決定していたのです(図3)。
図3:人とチンパンジーの脳DNAは、配列は同じでも編集され、違いを決定していた
進化論のメカニズムを説明するどの説も、進化が起こるきっかけは「偶然」です。しかし人とサルのDNAスイッチ研究の結果を見るとき、この複雑かつ微細に調整されているメカニズムが、偶然生じる可能性は「ゼロに等しい」と言うしかないのです。
このように、最先端の科学は偶然による進化を証明するのではなく、むしろ知恵ある創造者のご存在を示します。聖書はその方が神であると語っています。
参考文献:1. Khaitovich, P. et al. 2005. Parallel patterns of evolution in the genomes and transcriptomes of humans and chimpanzees. Science. 309 (5742): 1850-1854.
2. Konopka, G. et al. 2012. Human-Specific Transcriptional Networks in the Brain. Neuron. 75 (4): 601-617.
3. Martin, D. I. K. et al. 2011. Phyloepigenomic comparison of great apes reveals a correlation between somatic and germline methylation states. Genome Research. 21 (12): 2049-2057.
4. Zeng, J, et al. 2012. Divergent Whole-Genome Methylation Maps of Human and Chimpanzee Brains Reveal Epigenetic Basis of Human Regulatory Evolution. American Journal of Human Genetics. 91 (3): 455-465.