死を準備する胸腺

免疫の働きのために、大切な役目を果たす胸腺ですが、この胸腺は生まれて間もなく、少しずつ縮んでいきます。20代では胸腺は半分になり、60代ではほとんどなくなってしまいます。ところで、リンパ球は自分と自分以外のものを見分ける力があるのですから、自分自身の細胞は攻撃しないはずです。ところが、老人を解剖すると、内臓に攻め込んでいるリンパ球が見られるのです(図9)。

そこで以下のように考えられています。年をとるとともに、胸腺が縮み、それによってリンパ球の訓練が充分されなくなる。そして自分と自分以外のものを見分ける力が低下し、自分自身を攻撃し始める。その結果、内臓の機能が弱り、体力が落ちてくるのではないかと。胸腺は老化の、そして死の準備をしている体の中の時計と言えます。しかも、その時計は、生まれてすぐから死への時を刻んでいるのです。

免疫の働きが、人間にとって欠くことのできないものであることは、言うまでもありません。しかし、その働きによって、死が準備されていくのです。

図9 赤ちゃんと老人の胸腺と肝臓

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